クンダリニー ・ ヨ ー ガ


− クンダリニーとは何か−

言葉の意味
  サンスクリット語のプラーナという言葉の複数形は「生命」という意味である。プラーニン(プラーナを有するもの)は生きもののことをいう。ヨーガではプラーナは「宇宙に満ちている根源的エネルギー」だとされている。

  また、宇宙のあらゆる存在はプラーナで構成されているともいわれている。換言すれば、プラーナというエネルギーによって、存在が成り立っているということになる。つまり、この宇宙で存在として認められるものは、すべてプラーナで構成されていることになる。当然人間の存在もプラーナで成り立っていることになる。

  そして、その根源的エネルギーであるプラーナが、人体内で超常的能力として活性化することを「クンダリニーの覚醒」という。プラーナの人体内での名称が「クンダリニー」ということになる。

  クンダリニー(kundalini)というのは、コイル、螺旋(らせん)、環、巻き毛などを意味するサンスクリット語のクンダラ(kundala)という名詞から出た「クンダリヌ(kundalin)螺旋を有するもの」の女性形主格である。クンダリニーとクンダリー(kundali)は同じ意味であり、これが日本に入って来て「軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)」となった。

  クンダリニーは、その「螺旋を有する」という意味から、3回半とぐろを巻いた蛇が眠っている姿がイメージされた。蛇は生命力の象徴として扱われるところから、根源的生命エネルギーという意味合いもある。根源的生命エネルギーをもった蛇が、3回半とぐろを巻いた姿で眠っている状態がクンダリニーということになる。

  クンダリニーは、クンダリニーシャクティとかクンダリニーエネルギー、クンダリニーパワーなどの表現が使われるが、少しそれを整理してみよう。

  クンダリニーシャクティはサンスクリット語で、シャクティ(sakti)は、動詞語根(sak)の「〜する力をもつ」「〜することができる」という言葉から派生している。

  クンダリニーパワーやクンダリニーエネルギーというのは、「パワー」「エネルギー」が英語で、サンスクリット語と英語を使ったクンダリニーシャクティの別の表現語である。クンダリニーシャクティの英語訳には「サーペントパワー」という言葉がある。日本語に置き換えれば「蛇の力」となる。

  まとめてみると、プラーナは「宇宙に満ちている根源的エネルギー」であり、クンダリニーは、そのプラーナが人体内に「根源的生命エネルギー」として、三回半とぐろを巻いた蛇の姿をとって眠っている状態である。そして、その蛇の中に潜んでいる「宇宙根源力」をシャクティという。また、その宇宙根源力を象徴した神様が、シヴァ神のお妃の「シャクティ女神」である。

  したがって、「プラーナ」「クンダリニー」「シャクティ」という三つの言葉は、時として同じ意味合いで使われるが、間違いではない。

クンダリニーの現れ方
  クンダリニーというのは一般的になじみが薄いが、たとえば火事場の馬鹿力のように、常識を超えた力が発揮されるのはクンダリニーエネルギーである。また肉親の死や親しい人の不幸などの夢を見たのが、実は現実だったという「正夢(まさゆめ)」というのも、別に超能力者でもなんでもない普通の人にあることだが、これもクンダリニーエネルギーの一つの現れ方である。

  また、出産時のショックや交通事故などで肉体が受けた衝撃により、クンダリニーが覚醒してしまうこともある。そうすると、その後一般的な社会生活がしづらくなる。幻覚を視たり幻聴を聴いたりという程度ならまだいいが、半身不随になったり、精神病院に入院することになったりするケースもある。

  クンダリニー・ヨーガの流派の中には、外的なショックを与えてクンダリニーの覚醒を促すという修行法を、実践しているところもある。そういうことをすれば、簡単にクンダリニーは覚醒してしまうが、それは事故と同じことなので非常に危険だ。危険なだけでなく、本来目指している「解脱(げだつ)」から遠ざかってしまうので、全く無意味な修行法ということになってしまう。

  むしろ、すべての準備がととのうまでは、クンダリニーが覚醒しないように注意すべきである。すべての準備がととのうということには、いろいろな要素があるが、その中で最も重要なのは、徳のある人格者となることである。人間として未完成なのに、クンダリニーだけ覚醒しても意味がない。

伝統的な解釈
  人体内にはチャクラ(輪)と呼ばれるエネルギーセンターが存在していると考えられている。その数は、6、7、9、10、13、21などという説から144というのまであるが、現在は主要なチャクラは7つとされている。ムーラーダーラ・チャクラ(脊椎最下部)、スヴァディシュターナ・チャクラ(仙骨叢)、マニプーラ・チャクラ(臍部)、アナーハタ・チャクラ(心臓部)、ヴィシュッダ・チャクラ(咽頭部)、アージュニャー・チャクラ(眉間)、サハスラーラ・チャクラ(頭頂部)である。

  伝統的な考え方では、シヴァ神がサハスラーラ・チャクラ(頭頂部)、お妃のシャクティ女神がムーラーダーラ・チャクラ(脊椎最下部)に離れ離れにされているという。前述したように、シャクティ女神は、3回半とぐろを巻いた蛇の姿で眠っているクンダリニーである。そのシャクティ女神が覚醒し、一つひとつのチャクラを通り、サハスラーラ・チャクラまで上昇して、シヴァ神と合一すれば「解脱」できるとされている。

  そこで、積極的にクンダリニー覚醒を促す行法を実践しているのが、クンダリニー・ヨーガなのである。しかし、いきなりクンダリニーを覚醒させると失敗してしまうことが多い。それは、スシュムナー・ナーディー(中央意識路)内の3つの結節(グランティ)が、クンダリニーエネルギーの上昇を妨げているからである。ブラフマ結節、ヴィシュヌ結節、ルドラ結節という三つの結節を破壊しなければならないのだが、その場所については「眉間、心臓、尾てい骨」「喉、臍、尾てい骨」「眉間、喉、胸部」などいくつかの説がある。

  いずれにしても、結節を破壊してシャクティを頭頂部まで上昇させて、「解脱」に至るというのが、伝統的なクンダリニー・ヨーガの修行法である。



− ヨーガ経典を検証する −


クンダリニー覚醒行法を捜す
  クンダリニー覚醒を果たすには、具体的にどうすれば良いのかについて、ヨーガ経典から探ってみよう(以下紹介する経典の日本語訳は、宮本久義氏の試訳による)。

ハタ・ヨーガ・プラディーピカー
  1・26 右足を左腿のつけ根にのせ、左足を〔右〕ひざの外側に交差しておき、〔手でそれぞれ
      逆のつま先を〕つかんで、体をねじるのが、マツヤナータ師の説いた体位である。

  1・27 マツヤェーンドラの体位は、修練することにより、腹部を輝かせ〔=消化力を増強させ〕
      恐ろしい病魔の軍団をうち破る武器となり、人々のクンダリニーを覚醒し、月を安定さ
      せる。

  これはヨーガではポピュラーな身体をひねるポーズだが、このポーズだけでクンダリニー覚醒には至らないだろう。それよりはクンダリニー覚醒への準備と考えて、健全な身体を作り上げるために、実践するべきものだと思う。

  スィッダ・アーサナ(達人坐)によって、7万2千本のナーディー(意識路)の汚れが清掃される、と書いてあり、さらにアートマン(真我)を思念して、食を節して12年間スィッダ・アーサナを行じたら、ヨーガの究極の目的を達成する、となっている。

  スィッダ・アーサナというのは、クンダリニー覚醒にはかなり助けになる坐法である。しかし、これもスィッダ・アーサナが直接クンダリニー覚醒にはつながらない。だが、具体的に修行年数や回数を示して、効果を記述するというのは、経典には多くみられる。

  バストリカーというクンバカ(止息法)が、スシュムナー・ナーディー(中央意識路)の三つの結節(グランティ)を破壊する、とあり、ケーヴァラ・クンバカ(単独の保息)によってクンダリニーが覚醒する、と書いてある。

  バストリカーで結節が破壊される可能性はある。その場合、ハタ・ヨーガの各種行法を実践する内の一つとして、バストリカーを行じていれば可能性は高まるだろうが、バストリカーだけを実践しても、結節の破壊にはつながらないと考えた方がいい。

  ブジャンガ・アーサナ(蛇のポーズ)にもクンダリニーが覚醒するという記述がなされているが、本当にクンダリニーが覚醒する技法には、その通りの名前が付けられているだろうと、わたしは考えている。つまり、ブジャンガ・アーサナ(蛇のポーズ)も内容的には、クンダリニー覚醒の可能性を秘めていると思う。

  いくつかのヨーガ経典をチェックしてみて、確実にクンダリニー覚醒を果たせると思える行法が、一つだけある。それが「シャクティチャーラニー・ムドラー」である。まさにシャクティ(=クンダリニー)をチャーラニー(=動かすこと)という名前が示す通りに、確かにクンダリニー覚醒技法だというのが、わたしの実践経験から出された結論である。

ヨーガ経典のシャクティチャーラニー・ムドラー
  それでは経典の中で、そのシャクティチャーラニー・ムドラーが記述されている部分を書き出してみよう。現実的にクンダリニー覚醒と関係のある部分をピックアップする。

ゲーランダ・サンヒター
  3・49 ムーラーダーラ〔チャクラ〕には、個人の本体のシャクティで、最高の神格であるクンダ
      リーが、3巻き半のとぐろを巻いた蛇の姿で臥している。

  3・50 それ(クンダリー)が体の中で眠っているあいだは、生命体はけものの如くであって、
      何千万ものヨーガを修練しても、知は生じない。

  3・51 扉を鍵で力を込めてこじ開けるように、クンダリニーを覚醒させることによって、ブラフ
      マンの門をうち破るべし。

  3・54 灰を体に塗り、スィッダ・アーサナを修すべし。両方の鼻〔孔〕からプラーナ気を吸い込
      みアパーナ気にしっかりと結びつけるべし。

  3・55 スシュムナー気道の中に気が入り、堅固に輝くようになるまで、アシュヴィニー・ムド
      ラーで秘所(肛門)をゆっくりと締めるべし。

  3・59 このムドラーは最高の秘密にすべきものであり、老と死をうちほろぼすものである。
      それゆえ、成就を願うヨーガ行者たちによって修練がなされるべきである。

  ここで注目すべきは「アシュヴィニー・ムドラーで秘所(肛門)をゆっくりと締めるべし」という部分である。アシュヴィニー・ムドラーという行法は基本的には肛門を締め付ける技法である。つまりムーラバンダとほぼ同じ行法である。また、プラーナ気とアパーナ気をつなぐというのもキーワードである。「成就を願うヨーガ行者たちによって修練がなされるべき」という部分も、見逃せない。重要な行法になればなるほど、いいかげんな気持ちで実践するべきでないからである。本当にクンダリニー覚醒を願うヨーガ行者だけに許された行法が「シャクティチャーラニー・ムドラー」なのだ。だから「最高の秘密にすべきもの」と書いてあるのだ。

  次に、『シヴァ・サンヒター』からピックアップしてみよう。

シヴァ・サンヒター
  4・53 賢者(=ヨーガ行者)は、アーダーラ蓮華(=チャクラ)でぐっすりと眠っているクンダリ
      ーを、アパーナ気にのせて力強く引きずり出し、動き出させるべし。このムドラーがあ
      らゆる力を授けてくれるシャクティ・チャーラナである。

  4・54 毎日このようにシャクティ・チャーラナを修する者には、寿命の増長と病気の消滅が
      ある。

  4・55 眠りをふり捨てて、蛇(=クンダリー)は自ら上昇する。それゆえ、成就を欲するヨーガ
      行者は修練をなすべし。

  4・56 師の助言に従って最高のシャクティ・チャーラナを修練する者には、微細になる力など
      を授けるヴィグラハ・スィッディが〔得られる〕。そのような者に、どこから死の恐れがこ
      ようか。

  4・57 2ムフールタのあいだ、規定通りにシャクティ・チャーラナを努力して行ずる者には、遠
      からず成就が〔得られる〕。ヨーガ行者は適切な坐法によって、シャクティ・チャーラナ
      をなすべし。

  4・58 これが十のムドラーで、過去にもなかったし、未来にも〔匹敵するものは〕ないであろ
      う。一つ一つ修練することにより、成就が得られ、必ず成就者となる。

  この一連の記述で見られるのが「恐ろしい病魔の軍団をうち破る」「老と死をうちほろぼす」「寿命の増長と病気の消滅」という項目である。シャクティチャーラニー・ムドラーは解脱を目指して実践するのだが、その前提として健康で若さを保ち、死を克服する必要がある。また、「自ら上昇する」という表現には、クンダリニー覚醒の本質的内容が盛り込まれているのが感じられる。

ヨーガ経典のムーラバンダ
  シャクティ(=クンダリニー)を目覚めさせて、スシュムナー・ナーディー(中央意識路)を上昇させるのが、シャクティチャーラニー・ムドラーなのは確かだが、その具体的な行法となると、この記述だけでは納得できる答えがでない。

  プラーナとアパーナが合一し、クンダリニーが目覚めて「自ら上昇する」行法が、具体的に書いてあればいいということになる。

  そこで経典をチェックすると、そのものずばりの内容が書いてあるのが「ムーラバンダ」である。まず『シヴァ・サンヒター』には、次のように書いてある。

シヴァ・サンヒター
  4・41 足元(=かかと)で肛門をしっかりと押して、力強くアパーナ気を引き上げ、徐々に上
      昇させるべし。これがムーラバンダと説かれるもので、老・死を滅するものである。

  4・43 ヨーニ・ムドラーが成就したならば、地上で何が成就されないことがあろうか。このバ
      ンダの恩恵により、ヨーガ行者はパドマ・アーサナを組んだまま、倦(う)むことなく、
      大地を離れ、空中を行くことができる。

  この記述でも、ヨーガを実践し続けているわたしにはよく理解できるが、一般的にはムーラバンダとして見るならば、説明不足の感がある。そこで、次に『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』の方をチェックしてみよう。

ハタ・ヨーガ・プラディーピカー
  3・61 かかとで会陰部を押して、アパーナ気を上方へ引き上げるよう、肛門を引き締めるべ
      し。〔これが〕ムーラバンダとよばれる。

  3・62 〔肛門を〕引き締めることによって、下方へ向かうアパーナ気を力を込めて上方へ向
      かわせる。これをヨーガ行者たちはムーラバンダと呼ぶ。

  3・63 肛門をかかとで押して、〔アパーナ気が〕上方へ向かうまで、力を込めてくり返し気を
      引き締めるべし。

  3・64 ムーラバンダによって、プラーナ気とアパーナ気は、ナーダとビンドゥと合一し、ヨーガ
      成就がもたらされる。これについては疑いはない。

  3・65 常にムーラバンダ〔を修練すること〕によって、アパーナ気とプラーナ気が合一し、大小
      便が減少し、年老いた者でさえも若者になる。

  3・66 アパーナ気が上昇して火輪(ヴァフニ・マンダラ・腹部にあるとされる消化力の火)に
      達すると、アパーナ気にあおられて火炎は長くなる。

  3・67 さらに、火とアパーナ気が、熱い性質をもつプラーナ気に達すると、それによって、体
      内に生じた火は盛んに光り輝く。

  3・68 その結果、眠っていたクンダリニーは熱せられて、覚醒させられる。あたかも棒で叩
      かれた蛇がシューッという音をたて、直立するように。

  3・69 それから、〔蛇が〕穴に入るように、ブラフマンの気道(=スシュムナー気道)の中に
      入る。それゆえ、ヨーガ行者たちは常にいつでもムーラバンダを修すべきである。

  こちらの方は、かなり具体的な行法が書かれている。まず、基本的に肛門を収縮するということが明示されている。「アパーナ気が上方へ向かうまで、力を込めてくり返し気を引き締めるべし」とあるのを見逃さなければ、ムーラバンダを100万回実践しようという気になるはずだ。

  そして、プラーナとアパーナがムーラバンダで合一するとされている。「その結果、眠っていたクンダリニーは熱せられて、覚醒させられる」というところも重要だ。つまり、ムーラバンダをくり返し実践していると、覚醒するのではなく「覚醒させられる」という点に注目すべきだ。そして、スシュムナーを上昇するということまで、しっかりと書かれている。

  これだけはっきりと書いてあれば、経典でシャクティチャーラニー・ムドラーの技法部分がぼかして示されていたが、明白になる。シャクティチャーラニー・ムドラーは、明らかにムーラバンダの技法を使うという結論を引き出すことができる。

  そこまで分かれば、後は実践方法を極めるだけとなる。経典の記述だけでは、細かな技法は全然つかめない。わたしは、その経典の記述から、試行錯誤してシャクティチャーラニー・ムドラーの技法を完成させた。その技法を可能な限り本書で公開しようと思う。



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